レンタル彼氏【完全版】

「…………父親、に刺された……助け、て…」


わざとらしく、浅く呼吸をして、俺はそう言う。


「はあ?!今どこ?!」


美佳は叫ぶように言った。

俺は口元を緩ませながら

「駅前の、○×、通りの、喫茶店……」

簡潔に場所を述べる。


「わかった!今すぐ行く!」


そのまま、通話は途切れた。


多分、美佳のことだ。
本当にすぐ来るだろう。


美佳の家から、この喫茶店までそう遠くない。



俺は母親の体に突き刺さる包丁を、何のためらいもなく抜く。


それを握り締めると、ゆっくり深呼吸をしてから。


自分の腹に思い切り突き刺した。





鈍い痛みと、皮膚を突き破って肉に刃物が入り込む感覚。




震えながら、俺はその包丁を抜いてまた母親の側へ置いた。

抜いた所為で、俺の腹からはドクドクと血が滴り落ちる。




痛みと、出血で前が霞む。

酷く、寒い。



体温がなくなる感覚が、また俺を震わす。