それに私はうぐっと、黙る。

伊織の言葉に何も反論出来ず、目を泳がすことしか出来なかった。
面白くて優しくても、浮気は嫌だ。
借金も嫌だ。
暴力なんてもっと嫌だ。



「……ね、わかった?
理想と現実はうまくいかないことだらけなの」


何もかもを悟ったかのような言い方に、つい反論したくなるのは私がまだ子供だからだろうか。



「そんな伊織は理想あんの?」


少し声を荒げながら伊織に訊いた。
伊織は私の苛立ちなど気にもしてないようで、ぼーっと遠くを見つめながら答えた。





「……俺を連れ出してくれる人」




ボソッと呟いた声は、土曜の昼下がりのファーストフード店ではかき消されそうなほど小さかった。



「……え?」



「…ふっ、俺の理想は可愛くて、スタイルよくて、大人の色気ムンムンの、とりあえず泉でないことは確かだ」