芯の通った鈴恵さんの声。

「死ぬ、理由の方がないわよ」


「ある、あるよ」


「誰もが生きる理由を持ってるのよ」


「……わからない!だって、俺の所為で俺がいた所為で運命狂わせた奴たくさんいるんだ!
俺が、いなきゃ、いなければきっと、みんな幸せだったんだっ」


そうすれば、母さんも死ななかった。

そうすれば、美咲さんと店長が喧嘩することもなかった。

そうすれば、りさが通報することもなかった。

そうすれば、泉が俺に出会うこともなかったんだ。



パシンっ!



乾いた音が響く。



痺れる頬。
鈴恵さんは、涙を流していた。


「……す、ずえさ……」


「何を言うの!」


「……………」


鈴恵さんの、涙を俺は初めて見た。
鈴恵さんが、誰かに手を上げるのを初めて見た。

いつだって、笑顔で。


何が起きても笑顔で。


「私は伊織がいて幸せなのよ!」


「!!」


「初めて伊織を見て、それからずっとずっと私は伊織の母親だと思っていたわ!」


「……………っ…」


「伊織は、もうたんぽぽ院の家族でしょ?
必要ないわけ、ないじゃない!」