こんな時間においしいケーキ屋なんてあるわけないじゃん。
だって、もう八時過ぎてるし。

案の定、私を連れて来たお店は閉店していた。


「…………閉まってる」


「当たり前じゃん」


「…………ケーキ…」


「…………」

がっくりと肩を落とす聖。
こいつ、自分が食べたかったんだな?

だけど…。

「その細い体でケーキとか…。
よく太らないよね」


「なぜか太らないんだよね。
って、今の会話デジャヴュ!あれ、誰としたんだ?」


「…色々な人に言われるでしょ」


「うーん、うーん……」


呆れ気味に言う私の話を全く聞かず、聖は首を捻っている。

……全く聞いてない。
だって、そんな体で思うじゃんか。
私より細く見えるし。それが更にムカつくけど。


「あっ!思い出した!」

誰かわかったのか、すっきりした顔で聖が私を見る。
人差し指を立てて、自慢気に言った。


「伊織と話したんだ!」


「伊織?!?」

その名前にガバッと、聖の両肩を掴んだ。
多分、相当切羽詰まった顔をしていたに違いない。


「………い、伊織…」


私の様子に目を真ん丸にしながら、聖はおずおずと言う。

「伊織って…、…友達?」


「……まあ、友達?かな」


…………でも。

一緒の名前なんて…いるよね?
勘違いだよね…?

聖の肩を掴みながら、私は伊織の名前に過剰に反応し過ぎたと、冷静になってから思った。