「やっぱり伊織じゃねえか」


そこにいたのは。
俺に様々なレンタル彼氏として生きていけるルーツを教えてくれた…。


「………………店長」

あの、キャバクラの店長がいた。

「ははっ、もう店長じゃねえよ」


「………」

何でこんな普通に会話出来るのだろうか。
あの日、俺を確実に奈落の底へ突き落としたというのに。


未だ、美咲さんの声が頭に響いて絶望するのに。


そんな気持ちに打ち拉がれていると、店長はまた明るくからっと笑う。


「あれからな、俺暫くして店辞めて。瑞恵も辞めて…あ、瑞恵って美咲な?
瑞恵と結婚したんだよ」


「…………」

結婚。
美咲さんは誰よりも店長を愛していたから。


だから、然程驚きはしない。


「……伊織、あの時はごめんな」


申し訳なさそうに、言った店長を俺はキッと睨んだ。

もう、時効とでも言うのだろうか。
俺を傷付けたことは時効だと。