「………くそっ…。
バカ野郎…、本当に…」


「…順二…」

悔しそうに、奥歯を噛みしめる順二は肩が震えていた。


そんな順二を私も抱き締める。




伊織に出会ってなければ、順二を好きになったかもしれない。



でも、ごめん。
伊織に出会っちゃったんだ。


手の届かない、芸能人かなんかみたいだと思っていた彼に。


会って、恋に落ちてしまったんだ。



あの、悲しげな瞳からもう視線を逸らすことなんて出来ない。



……順二も、幸せになって…。
それで、俺を選ばなくってバカだなって笑ってあげて。

そうしたら、本当にバカかもねって笑ってあげるからさ。



本当に。

今日で順二とも。
高校生活ともお別れ。



順二は暫く私を抱き締めた後に、急にごめんなって笑いながら。


「それじゃあ」


そう言って。
私の瞳を真っ直ぐに見つめて。


去ろうとして足を踏み出した時。



私の頬に一瞬。



キスを落として、そのまま何も言わずに走り去っていった。