「……ふぅ」

とりあえず、出かける準備をしてソファに腰を沈めた俺は小さく息をついた。


美佳からの連絡は、ない。
何もしないで、ぼーっとしてるといつの間にか頭にはあいつがいる。


どうしてだか、いつもいる。


笑って、俺を呼ぶ。
泣きながら、俺を抱きしめる。

客にしようとして、俺がハマったんじゃざまぁねえな。


結局、金だって支払われてない。
いや、いらなかった。

金なんか。



クローゼットにぶちこまれた、アタッシュケース。


「全部燃やしちまおうかな…」


誰もいない、この部屋で一人呟く。




何も、考えるな。
もう、何も。


そうやって、目を瞑った。


そのまま、意識を手放そうとした瞬間。



俺の青い携帯からけたたましい着信音が鳴り響いた。



きっと、美佳だろう。
名前を確認すると、やっぱり美佳だった。


「……もしもし」


「あ、伊織?寮の前にいるから出て来て」


「…………はいはい」


そのまま、ぶちっと携帯を切って俺は部屋を後にした。