レンタル彼氏【完全版】

「………辛い、思いさせてごめんね…」


え?


聞き間違いかと思って顔を上げた俺は目を見開いた。


「……体、売るまで苦労かけたのは母さんだね…。
もっと母さんが稼げたら…ごめんね、伊織」


ぽたぽた涙を流して。
俺の罪を受け入れて。


それどころか、それが自分の罪だとでも言うように。

はたはた落ちる涙を拭うこともせずに、俺を強く抱き締めた。


「もう…しなくていいから。
伊織にそんなことさせるぐらいなら、母さんが夜働くから…」


そんなん、しなくていい。
いらない。


俺はふるふる首を振る。


その頬に手を伸ばして、母親は涙で潤むその瞳でしっかりと俺を見つめた。


「大丈夫、母さん、大丈夫だから」


いらないんだよ。
母さんが頑張る必要、もうないんだよ。


全部。
全部。

あいつの所為なんだから。



伝染したように。
俺の瞳からもぽたぽたと涙が流れ落ちる。