泊まればいいのに、そう言った美佳を宥めて俺は家に帰った。



玄関を開けた瞬間。

母親が俺の名前を呼んで、走り寄ってきた。


「伊織!!!」


既に23時を過ぎてる。
いつもなら寝ている時間。


少し、疲れた顔を見せている母親は強く強く俺の体を抱き締めた。


「もう、いきなりいなくなって…」


「……………」



不思議と。

今朝まで感じていたどろどろしていた黒い気持ちが出なくって。


素直に。


「…ごめん」


そうやって俺を抱き締めている母親に謝った。




「無事なら、いいの。
お腹は?空いてない?
コーヒーでも飲む?」

背中を擦りながら、母親は俺の顔を覗き込む。


ふっと、口角を上げて微笑むと俺は首を横に振った。


「いらないよ。もう、寝よう?」


「大丈夫?いらない?」


「うん、大丈夫。
紀子さんも眠いでしょ」


「母さんは大丈夫よ?」


「やだやだ、寝よう?」


「わかった、わかった。
そこまで言うなら寝よっか」


少し、不満そうな母親の背中を押して階段まで進んだ。