彼女はタバコをカバンから取り出すと、それに火を点けた。


「吸う?」

俺は首をふるふると横に振った。


施設にいた時から吸ってないし、今吸ったら際限なくなりそうだったから。


何より。
吸う姿を母親に見られたくなかった。


どこまでも。
俺は母親の愛情を欲してるんだと思う。


貪欲に。


「あらら、そう?
そういえば君、名前は?」


「…………伊織」


「伊織ね。
私は美佳」


「…………」


「やーね、暗い暗い!
また会おうよ!
そん時は体売らなくてもいいしさ。
ご飯でも食べたりしよ?」


こくんと頷いた俺の頭を、美佳がニコニコしながら撫でた。


「私、彼氏とかいないし。
いつでも来ていいからね」


「………うん」


「本当、可愛いね」


頭を撫でていた手を下に下げた美佳は、俺の唇に唇を重ねた。





そのキスはタバコの味がした。