それから俺はこの孤児院に暫くいた。

他の子供とも、遊んだりして毎日を過ごした。

気付いたら、俺は中学二年の年齢になっていて。
学校へ行かなくなってから一年が過ぎた。


そんなある日だった。
いつものように、子供達と勉強をしたり、遊んだりしていると鈴恵さんが俺を呼んだ。

「伊織、ちょっといいかしら」


「あ、はーい」

また、後で来るからな。と声をかけてから俺は鈴恵さんの元へと走った。

ここに来て俺は、毒が抜けたかのようにイキイキしていた。
いつの間にか、ここが居心地よくて。
あの日のことも自然と思い出さなくなっていた。

あの数ヶ月は、幻だったんだと思うようにもなった。


美咲さんも、店長も知らない。
キャバクラも、色恋も。

何も知らない。

わかってた。

堕落した人間に幸せな生活なんか、ないってこと。

安定した未来なんてないことを。


わかってた。
わかってたけど…

ずっと、望んでいたんだ。