レンタル彼氏【完全版】

奈落の底に突き落とされたような。
心臓を一突きされたような気分だ。


「…意味が、わからないんですけど…」


「んー」

美咲さんが、腕を組みながら俺を見る。


怖い。

怖い。

その続きを聞きたくない。


「……短い間だったけどお疲れ様でしたっ!」


「なっ?!
店長!どういう事ですか!!?」

勝手なことを言う美咲さんに、何も言わない店長に必死に俺は叫んだ。
だけど、店長は俺を一度見てから

「そう、言うことだ。悪いな」

悪びれた様子もなく、しれっと言い放った。

呆然と立ち尽くす俺の前に美咲さんが走り寄る。


「…………」

虚ろに俯く俺の手を取って、何かを握りしめさせた。


「これ退職金!」

渡されたのは分厚い、お札が入った封筒。
まだ、三ヶ月足らずの俺には有り余る退職金。

あまりにも突然のことで、暫く動けなかった。