レンタル彼氏【完全版】

その翌日。
疲れた顔で俺は店の扉を開けた。

そこに何時ものようにいた店長の側に、美咲さんがいて俺は面食らった。


「…美咲さん…、早いっすね」

一生懸命冷静を装ったつもりだったけど、自分の声が震えてないか気になった。


「うん、伊織、話があるの」

相変わらず、笑っている美咲さんのそのセリフに胸がぎゅっと痛い。


ドクンと心臓が鳴る。
ちらっと店長を見ても、店長はこっちを見ようとせずタバコに火をつけていた。
いつもと同じマイルドセブン。

「あのさ、伊織」


「…はい」


手に汗が滲む。
次の言葉を待ってる時間が、途方もなく感じる。


「もう、いらない」






一瞬、何を言ってるのかわからなかった。


「………え?」

問い返すと、変わらない笑顔で

「伊織、いらない。
もう、この店に必要ないってこと」

再度、同じセリフを繰り返す。