レンタル彼氏【完全版】

その日。

俺は気付けば美咲さんばかり見ていた。
あの人を知りたくないのに、気になってしょうがなかった。

知ったら、危険だと本能でわかってるのに。


美咲さんは、閉店するまでいつもと変わらず接客していたし、お客さんとアフターに向かっていた。

軽く溜め息をつきながら、俺はずしっといつにも増して疲労感を感じていた。


「……伊織」

小さな声で俺に話しかけるのは由宇だ。


「…ん?」


「今日、アフターないからウチ来ない?」


「……うん、行くよ」

美咲さんとのメールも曖昧なまま終わっていたし、当の美咲さんがアフター行ってしまったし。

店長のとこにも、なんとなく行きにくかったから俺は助かったと思っていた。

由宇は俺の返事にぱああっと笑顔を見せると、弾んだ声を出した。

「じゃあ、着替えてくるねっ!」

それにあやふやな返事をしながら、後ろ姿を見送った。