節々に。

その痕跡があったのに。

断片が見えてたのに。

例えば、同じ銘柄のタバコや。
耳元に光るピアス。
笑った後に目を細める癖。

何もかもに欠片が潜んでいたのに。


子供だった俺は気付かなかった。


ラーメンをご馳走になってから、店長の家に帰宅した。
先にシャワー浴びるな、と言いながら浴室へと店長は向かった。

俺は冷蔵庫から、勝手に缶ビールを取り出してそれを開ける。
その時に、ふっとペアのマグカップが目に入った。
…店長、彼女とかいるのだろうか。


そう、思いながら缶ビールを口にする。
冷たい液体が喉を通り抜けた。
携帯を見ると、由宇と麗奈からのメール。

後、もう一通。


美咲さんからだった。


「…え?」

その名前を見た時、思わず言葉が口から出ていた。

「…………」

美咲さんからメールなんて、連絡先を交換してからこのカタ来たことがない。

…何だろう。
そう、思いながら俺はメールを開いた。

【お疲れ様。
今度、家に来ない?
色々なとこに泊まってるんでしょう?
部屋、余ってるの。】

…どういうことだろう。


その真意がわからなくて。
見えなくて。
食い入るようにそのメールを見つめた。


偽の彼女にメールを返信することも忘れて。