気付けば。
俺は堕落して、底辺にまで沈んでいた。

「ねえ、由宇。
このジャケットカッコよくね?」


俺はわざとらしく雑誌を見せて、彼女に言う。
彼女は

「うん、カッコいい。伊織、似合うよ」

そう、言いながら笑顔を見せる。

それから何日か後に、全く同じジャケットが部屋に飾ってあって。
由宇が、嬉しそうに、照れ臭そうに。

「買っちゃった!」

そう、言った。

とびきりの笑顔を見せて、俺はそのジャケットを羽織る。
値段は確か、五万だった。


五万。

その価値がよくわからなくなっていて。


俺は、金銭感覚も。
恋愛感情も。
どんどん狂っていった。


何も知らなかった俺が。
闇に染まるのは簡単だった。


真っ白ほど、その闇は濃く見えるから。


俺の全てを支えたのは、俺の見た目。スタイル。
何もかもがこの手の中にあるんではないだろうか。


そんな錯覚に陥りそうになる。

何も。
何も見えてなかった。