他のところがどうとか、中学生だった俺は知る術がなかった。

ただ、その色恋が当たり前だと信じて。


そう。
信じて。


「…伊織?」

俺の、母親が俺を呼んだ。
翌日も俺は普通に学校から帰宅して、白々しく返事をする。


「どうしたの?」


「…貴方、夜どこにいるの…?」


「え?」

心臓がぎゅっとなる。
早鐘のように鳴る鼓動がうるさい。


「…伊織が最近、タバコの匂いをさせてるから…母さん、夜伊織の部屋覗いたの。
だけど、伊織はいなかった」

変な音を立て続ける心臓部分をぐっと掴む。

「…一体、どこに行ってるの?」


俺が。
キャバクラのボーイで働いてるなんて。
露知らず。
俺を心配しているこの人。



…母親?

血の繋がりがない。
俺の母親は、ただ一人。


俺を幼い時に捨てた母親だけだ。


「……………はははっ」