偽装結婚の行方

客用のマグカップなんて無いから、尚美のそれにコーヒーを注いで真琴の前に置くと、「ありがとう」と言いながらも、真琴はちょっと嫌そうな顔をした。


「ねえ、いつ帰って来るの?」

「尚美達か?」

「当たり前でしょ? さっきから何惚けてんのよ……」


“惚けてる”かあ。確かにそうかも。俺はなるべく尚美の話題を避けようとしているが、それはちょっと無理っぽいなあ。


「わからない。もしかすると泊まって来るかもしれない」


もちろん俺が迎えに行かない限り、尚美達は帰って来ないわけで、いくら待っても無駄だという意味で、真琴にはそう答えた。


「そうなんだあ。あのさ……」

「ん?」

「相手の男の事は聞いたの?」


“誰の事だ?”と聞き返そうと思ったがやめた。また“惚けるな”って言われるに決まってるから。そう、真琴が言ったのは、尚美の“恋人”の事だというのはすぐに解った。


「聞いてない」

「なんで?」

「相手は既婚者だから、言ったらその人に迷惑が掛かるからさ」

「ふーん。心当たりはないの?」

「それは……」

「あるの?」

「ちょっとな」

「だったらさ、その人に聞いてみなよ?」

「はあ? 何を?」

「尚美って子の話が、本当かどうかよ」

「なに?」


真琴は、俺が全く予期せぬ事を言いだした。