偽装結婚の行方

尚美は多少なりとも迷うんじゃないか。そう思ったのだが、


「ううん、全然後悔してない」


キッパリとそう答えた。目が泳いだりもせず、それは言葉通りに受け取っていいと思った。


「そうか。でも、どうして……」

「そんなの決まってるじゃない。私は涼が好きだから。前はどちらかと言うと憧れに近かったけど、一緒に暮らすようになって、はっきり好きになったの。もう他の人とじゃイヤだし、そんな気持ちで結婚したら、渡辺さんに申し訳ないもの」

「そっか、ありがとう。でも、おまえは俺とも別れようとしたよな?」

「涼とは別れるも何も、そもそも私が無理にお願いして始めた偽りの生活だから、単にそれを終わらせただけ、のつもりだった」

「ああ、確かにそうだよね、理屈では。でも実際には、偽りで始めた事がいつからか偽りでなくなっていた。俺にとっても、おまえにとっても。そうだろ?」

「うん、そうだけど……」

「だからさ、この先もこのままずっとずっと続けて行こうよ?」

「涼は本当にいいの?」

「くどいぞ、尚美。俺がそうしたいんだって言ってるだろ?」

「でも……」

「何? 何が問題?」

「周りが何て言うか……。特にあなたのお父様やお母様は、きっと許してくださらないと思う。仮に許してくださったとしても、私はずっとあの方達から嫌われ続けると思う。私、それに耐えられる自信は……」


尚美のその不安は当然だと思う。俺だって、ずっと前からその事ばかり考えていたんだ。その結果、ある秘策を思い付いたのだが、今こそそれを尚美に話そうと思う。