偽装結婚の行方

「渡辺さんは今まで迷ってたけど、尚美や希ちゃんに久しぶりに会い、ようやく奥さんと離婚する決心がついたらしい。でも、尚美は渡辺さんを振ったんだってね？
それはどうしてなのかな？」


そう言って俺は尚美の顔を凝視した。その理由を渡辺さんから聞いてはいるが、ちゃんと尚美の口から聞きたいし、彼女の本心をしっかりこの目で確認したかった。


「そ、それは……彼、渡辺さんから聞いているのでしょ？」

「さあ、どうだったかな。だとしても、もう一度おまえから聞きたいんだ。本当の事を……」

「もう、いじわるなんだから……」

「意地悪で言ってるんじゃないよ」

「今言わないといけないの？」

俺はコクっと頷いた。


「わかった。言うわ。あのね、お買い物をしてる時に阿部さんに会ったでしょ？ あの時、涼が考えた作り話は、私にとっては全然作り話じゃなかったの。あまりにドンピシャだから、涼は知ってて言ってるんじゃないかって思ったぐらいよ？」


言われてみればそうだった。あの時は完全に作り話のつもりだったけど、今考えると、あれは俺の願望だったのかもしれないなあ……