偽装結婚の行方

「でも正直、渡辺さんは顔も見たくなかった。だから確かめるとかもしなかったけど、尚美が急にあんな事言うから……。真琴に嫌味を言われてそうしたんだよね?」

「えっ、そんな事まで知ってるの?」

「ああ、昨夜真琴から聞き出した」

「昨夜? という事は……」

「そう。昨夜は実家に帰ってないんだ。本当の事を言ったら、さぞやお袋達はがっかりするだろうなと思ったら、帰り難くなって真琴のアパートに泊めてもらったんだ。あ、誤解すんなよ? 俺と真琴は単なる友達だし、変な事はしてないからな?」

「そうなの?」

「おまえなあ。前にもそう言ったろ? 俺は嘘はつかない」


とか言いながら、真琴が俺に惚れていたって事は、この際黙っていよう。ややこしくなるだけだから。しかし、


「そう? でも、真琴さんはあなたの事……」

「ん?」

「な、なんでもない」


俺は恍けたが、既に尚美は真琴の気持ちに気付いてるっぽかった。


「で、真琴が余計な事を言うから、おまえは……」

「ちょっと待って! 真琴さんは悪くないわ。私、あの人に言われて自分でもそうだなと思ったの。いつまでものらりくらりと、涼を縛って甘えてた私が悪いのよ」

「いや、俺は別に……」


“構わなかった”と続く言葉は言わせてもらえず、


「ううん、私は本当に卑怯だった。だから……」

「渡辺さんに会いに行ったんだね?」

「うん……」


そして、奥さんと離婚するから、と言った渡辺さんに尚美は別れ話をしたわけだ。だが、その事については尚美本人から直接聞いてみたいと思う。俺にとって、いや俺達にとって、とても大事な事だと思うから。