ハローワークから寒空の下に出ると、もう日は暮れていた。僕は時計を確認した。五時半。もう、陽子はパートから帰っているな。赤ちゃんがおなかにいるのだから、無理はさせられない。早く帰って、たまった洗濯物を干そう。今日もつわりはなかっただろうか。しばらくほかほか弁当だってかまわない。そう言っても、陽子はいつも台所に立とうとした……。


「あいたっ」


僕は時計を見ながら歩いていたので、ハローワークの入り口から少々はみ出して置いてあるクリスマスツリーに気づかず、つまずいてしまった。幸いツリーは倒れなかった。場違いなほどに派手な電飾が施された、大きめのツリーだから、壊したらかなりの金額を請求されるだろう。余計な出費はごめんだった。


クリスマスツリー……。そうか、今日はクリスマスイブだったな。


僕は温かいマフラーに顔をうずめて、ツリーを改めて眺めた。緑色の人工木に、派手なピンクのモール、金色のオーナメントに、靴下がいくつかぶら下がっている。


こいつも、今日明日が終われば、お役御免。まるで、僕みたいだな……?僕と違うのは、こいつには来年があるってこと、僕にはそんな保証はない……。


そこまで考えると虚しくなって、僕は足早に立ち去った。


街を抜けていくと、今日はあちこちの飾りの下で、恋人を待っているようなそわそわした男女がいる。立ち寄ったコンビニでも、シャンシャンと心を弾ませるような鈴の音に、デザートコーナーに置かれているクリスマスケーキ、そして店員のサンタ帽子、と人々の財布を快く取り出させるような仕掛けが随所に見られた。


僕は、しばらく迷ったあと、二人分のショートケーキを買うことにした。つわりのある陽子でも、好物の甘いものだから食べられるかもしれない。結婚してからも、余裕のない家計を助けて、常にパートで働いてくれている彼女への感謝をこめて、僕はケーキを買い、外に出た。