「今年も、ありがとうございました」


僕は、今年お世話になった担当の男性職員に頭を下げた。初老の職員は、いつもはあまり愛想がなかったが、今日はどこか明るく、一礼した僕をいたわるように、挨拶を返してくれた。


「いえ、こちらこそ。あなた、来年は決まるといいね」


彼に悪気はないのだった。それどころか、本当にそう思ってくれているかもしれない、とさえ思えるほど、その声は優しかった。しかし、彼が親切にしてくれるほどに、僕の心は沈んだ。


僕はもう一度軽く礼をしてから、ブースを出た。求人の少なさに、思わずため息がもれた。


そう、ここは師走のハローワークだ。せわしない世の中で、特に時間に追われるような思いでここに通う僕は、まだ職が決まらない。


3ヶ月前に、勤めていた会社が倒産した。大手自動車メーカーの部品を受注して生産する小さな工場だった。僕は、5年前に工業高校を卒業してすぐに、この工場に勤め出した。従業員も少なく、アットホームな雰囲気が気に入っていた。一番の若手だった僕は、ずいぶんかわいがってもらったが、それも今では思い出にすぎない。


先ほどの職員は、社長に似ていた。靴底を磨り減らすように金策にかけずりまわっていたが、ある日突然、何の書き置きもなく蒸発した、あの優しい目をした社長に……。


僕は、そこまで思い出して、頭を振った。考えすぎても仕方がない。僕はまた働かなければいけないのだ。高校の同級生だった妻の陽子と、来年生まれる予定の子供のためにも。なんとしても、職を見つけなければ。今までは、工場関係の職を探していた。だが、僕には学歴がない。いい求人を見つけても、大卒以上、と書かれていると、涙を飲んで諦めるしかないのだ。


僕の心は、いつの間にかどんどんと荒んでいた……。