彼女がそれを教えてくれるまで一歩も引く気はなかった。何時間でも待ち、何度でも食い下がる意志を持っていたのだ。どうしてそこまで強固な思いを持っていたのかはわからない。しかし彼女の瞳の先にあるものが何かを聞くならば今しかないということだけは、はっきりと分かっていた。

数分、いや数秒だっただろうか。僕と彼女の睨み合いは続いた。さらさらとした夜風が吹き抜ける中で僕達の視線の攻防はじりじりと熱を帯びていた。

僕が引く気のないことを悟ったのか、彼女は意外にもあっさりと折れた。瞬きをひとつして、息を軽く吐き、拒否の言葉を述べるでもなくぽつりぽつりと話し始める。


「……私、」

そこで言葉を区切って、彼女は再びネオンの輝く街を見渡した。


「私、ついこの間まで地方の田舎町に住んでたの」

彼女が素直に話し始めたことに内心驚きつつも(だって彼女は普段とっても頑固なのだ)、それを表に出さないように静かに彼女の言葉の続きを待った。


「でもね、その田舎町に引っ越す前は、ここに住んでた」

懐かしそうに目を細める彼女。


「都会は冷たいなんて言うけれど、そんなことないでしょう? 私にとってここは故郷で、とても温かい街だわ」

"都会は冷たい"、か。実は僕も上京してくるまでは東京に対して無機質で冷たいというイメージを拭いきれなかった。人との付き合いも希薄で、皆が皆、自分の為だけに生きているのだと。