約5年前…





「アキハくん、どうぞ。」


髪を二つに結んだ可愛らしい女の子が俺にクッキーの袋を渡した。


「ありがとう。」


当時俺は中学1年生で初めてできた彼女の家に遊びに来ていたのだった。


彼女の名前は松下智子。


クラスの人気者で級長も務める優等生だ。


今日は付き合って初めてのバレンタイン。

残念ながら14日は智子に用事があるらしく、その翌日の15日になってしまったが、俺は智子の家に呼ばれていた。


初めて入る女の子の部屋にどきどきしながらも、クッキーを受け取った俺は袋から出して智子の目の前で食べる。


お世辞にもおいしいとは言えない味がした。


しかし、俺の目の前には目を輝かせて俺からの感想を待つ智子がいる。


「どうだった?」


智子に訊かれてしまった俺は、とっさに「おいしいよ。」と、答えた気がする。