ドアが開く。
外の匂いがした。
「待って…」
俺は気がつくと、彼女の手首を掴んでいた。
彼女がいなくなってしまうような、もう会えなくなってしまうような気がしたのだ。
驚いて振り向く露木さん。
「…アキハ…君?」
「また来て…?」
俺はそれだけしか言えなかった。
「うん。」
露木さんが頷く。
俺の手が露木さんの手から離れる。
扉が閉まった。
「それでいいのかー?アキハ。」
のぶ代さんが伸びをしながら言う。
「いいんだよ。」
「アキハがそれでいいならわたしはそれでいいとおもうよ。」
俺はベッドの縁に座った。
「うん…」
のぶ代さんが俺の膝の上に乗る。
「アキハ、つらいのか…?」
のぶ代さんが俺の顔を覗き込む。
「辛い?どうして?」
「だっておまえ…ないてるぞ?」
「え…?」
のぶ代さんに言われて初めて気がついた。
苦しかった。
いろんなことが、頭の中をぐちゃぐちゃにして…
10年前の露木さんの顔が、あの時見た光景が、そして、さっきの露木さんの表情が忘れられなくて。
頭にしっかり焼き付いて…
わからなくなった。


