「…陽都君?」

思わず陽都君の右腕をギュッとつかんだ私。

だけど陽都君は、その私の手をゆっくりと左手で離して、後ろを向いた。

「…ごめん…

…俺…
花恋を好きになったんじゃないのかも…

花恋は…
美優姫に…どこか似てるんだ…

でも…似てただけだった…

俺は、美優姫に似てる花恋を好きになったんだ…

…どんなに想ったって、どんなに後悔したって、美優姫はもう戻ってこないんだもんな…」

そして1歩前に足を踏み出した陽都君。

しかし、すぐに立ち止まって、こっちを向かずに

「…忘れて。
今の話も告白もキスも…全部」

陽都君はそう言って、再び歩き出してしまった。

「…陽都君!!」

私はあわてて追いかけると、陽都君のパーカーの裾をつかんだ。

「なに」

こっちを見ようともしない陽都君の声は、さっきとは打って変わって冷淡で…

その態度の急変さに、1度は止まった涙が再び溢れてきた。

だけど…


あんな一方的な告白は…

ずるいよ…



「…忘れられないよ…
無理だよっ…
だって花恋は…
陽都君が、好き…なんだよ…」






「…如月?」

翌朝、ロッカーではなく下駄箱の所で美羽を待っていると、後ろから声をかけられた。

振り向くと、加々見君が立っていた。

「おはよう…」

笑顔を作って挨拶すると、何故かばつが悪そうな顔をされた。

「…はよ。
……昨日のこと…
全部陽都から聞いた…」


…あぁ、だからそんな顔してるんだ。


「…そっか」

私は苦笑いするしかなかった。



昨日あのあと、勢いにまかせて想いをぶつけた私に、陽都君は背を向けたまま呟いた。

「ごめん…」と。


陽都君はそのまま帰ってしまい、私はひとりで帰宅したあと、美羽に電話をした。

もちろんサボってる間の出来事は何も話さなかった。

そして朝方、美羽が不機嫌だったのは、お母さんとケンカしたからだとか…。




「…あいつ、ちゃんと悩んでたよ…
如月本人が好きなのか…
…美優姫が好きなのか…

だけど、最終的に如月にひどいことしたって…
その…泣いてた…」

語尾を小さくする加々見君。

「…そう…なんだ」

私はうつむいた。

すると、加々見君は私の肩を軽く掴んで、いつになく真面目な顔で言った。

「…如月、頼みがあるんだ」





「陽都を助けてやってくれ」

加々見君はそう言った。

加々見君いわく、陽都君は朝練に一緒に行く途中、昨日の公園に寄り、そこで精神不安定…?になったとか…

しかし、昨日の今日だ。

困惑していると、加々見君に頭を下げられた。

「如月しかいないんだ、今のあいつを助けられるのは…
俺じゃダメなんだ、どうしても如月じゃないと…」


さすがにそこまで言われたら、知らん顔することもできなくて…

私は、美羽への伝言を加々見君に頼むと、学校を走り出た。


そして今、私は昨日の公園にいるわけだけど…



「……」

「………」

私達はひたすら無言で、隣り合わせに座っていた。

そしてたっぷり5分は経ったあと、先に陽都君が口を開いた。

「…俺さ…
怖いよ…
花恋本人を、これ以上好きになっちゃったら…

…きっと花恋をたくさん傷つける…

花恋のことが好きで…
でも美優姫の存在は大きくて、忘れられなくて…」

震えている声と体。

私は、陽都君の右手の上に自分の左手を重ね、陽都君を見据えて言った。

「…忘れなくていいんだよ。

美優姫…さんのこと…忘れなくていいの。

美優姫さんの存在が大きいのは当然だよ。
だって陽都君は、美優姫さんと長く一緒にいて…思い出だって多いんだから…

でも、陽都君は生きてるんだよ?
花恋や加々見君達と「今」を生きてるんだよ。

だから…「過去」に生きてた美優姫さんと一緒に止まってちゃダメなんだよ。

…花恋達と、ちゃんと「今」を生きよう…

………陽都君が、美優姫さんの為に笑うんなら…」

私は重ねた左手に力を込めた。

そして、精一杯微笑んだ。



「花恋は、陽都君の為に笑うよ」


「…花恋」

目を見開く陽都君。

「…花恋はね、陽都君が大好きなんだよ。

だから、陽都君の傍にいて支えになりたいの。

陽都君が大丈夫になるその日まで…

花恋は陽都君の為に笑ってたいんだ」



私の言葉に、陽都君はしばらく固まっていたけど、やがてフッと微笑んでうなずいた。


「…ありがとう、花恋…」