「……。『世の中には、知らないでいることの方がいいことがある』。……そう言ったのは、皐月。お前だ」
「へっ?」
那ヶ真先輩はとめていた足を進ませ、病室を出て行ってしまった。
……というか、そんなこと、言った記憶がないんだけれど。
ましてや、今回が初対面の那ヶ真先輩に対してなんて。
うん、言った覚えがない。
やっぱり誰かと間違えているのかなぁ?
そのわりには、新野皐月……って、ちゃんと僕の名前を口にしていたわけだけれど。
うーん、よく分からない人だったなぁ。
……って、あれ?
白い壁にかかっている時計を見て、僕は不思議に思った。
患者との面会時間……とっくに過ぎているのに、どうして那ヶ真先輩はここへ来れたのだろう……?



