恋を知らない人魚姫。


「そう!懐かしくない? あたし、人魚姫好きだったんだぁ」

言いながらパラリ、ページをめくる愛海。

絵本なんか置いてあったんだ……。

今まで幾度となく図書室へ足を運んだのに、こんな本があるなんて知らなくて、少しびっくりする。


「切ないけど……素敵だよね」

そう言って、愛海が開いたのは、物語のクライマックス。

王子様を殺すことが出来なかった人魚姫が、海へ飛び込むシーン。


「あたしも、自分を犠牲にしてもいいって思うくらいの、恋がしたいなぁ……」


多分、普通ならそれほど気に止めなかった。

だけど、うっとりとした様子で呟いた愛海の言葉が、グサッと心に突き刺さる。

まるで自分のことを、責められているような気がして。


これから死ぬというのに、微笑んでいる人魚姫の表情が、あたしを嘲笑っているような気がして――。


「そうかな……?」

あたしは小さく口を開く。