恋を知らない人魚姫。



まだ朝だというのに強い日差し。

歩いているうちに、じんわり汗をかいた背中。

そこにかけられたのは、

「海憂、おはよっ!」

いつもと変わらない愛らしい声。


ここは毎朝あたし達が合流する場所で、声をかけてくれた時間帯もいつもと何ら変わらない。

なのにドキッと心臓が跳ねたのは……。


「何で昨日電話出てくれなかったの?」

隣に立った愛海は、あたしに向けた首を傾げた。

「あ……ごめん。ちょっと気付かなくて、気付いた時はもう遅い時間だったから、かけ直さなかったの」

笑顔を作りながら、背中には汗が一筋滑り落ちる。

昨日あれから……家に帰ってから、愛海から電話がかかってきた。

気付かなかったなんて嘘。
愛海がケータイを鳴らせたその時、あたしは目の前にいた。

「で、何の話だったの?」

何でもない顔をしながら、尋常じゃなく動揺してる。