恋を知らない人魚姫。


不意にかけられた言葉のせいで、ほんの少し柔らかくなりかけた気持ち。

それを消し去るみたいに、あたしは口を開いた。


「手伝ったんだから、ひとつ教えて」


静かな室内にあたしの声が響いて、櫻井くんは少し驚いた顔をする。

でも、すぐに静かな笑顔を浮かべて。

「いいよ」

彼は返事をした。

「……ちゃんと答えてくれるって約束してくれる?」

「もちろん」

あたしは手にギュッと力を込め、声を出す。


「あたしと付き合ってる目的って、何?」


それは、ずっと心に抱いていた疑問。

始めは意味なんてないと思ってた。
あたしの気持ちを偶然知って、面白がっているだけだと思った。

だけど不意に見せる行動が、目的を分からなくさせてて……。


はっきりさせておきたかった。


「何だ、そんなこと?」

櫻井くんは、鼻でフッと笑う。

「いいから答えて」

誤魔化されるのはもうごめん。
あたしは鋭く睨みつけた。

「付き合ってる理由なんか、簡単じゃん」