恋を知らない人魚姫。


「会いたいからって、メールで言ったじゃん」

櫻井くんはあたしの表情をからかうことなく、何も見なかったかのように、再びにっこりと笑った。

「じゃあっ、もう会ったから帰らせてもらう!」

強めに言って、背中を向けようとするあたし。

彼の態度は、あたしの望んだものだったかもしれないけど、気を遣われてる、同情されてる……って、すごく感じるものだった。

恥ずかしいのか、苛立っているのか分からない。
ただとにかく嫌で、早くこの場所から消えてしまいたかったのに、


「まだ終わってないよ」

彼の声があたしを呼び止める。

仕方なしにゆっくりと振り返ると、

「手伝ってよ」

片手に2冊ほど本を持って、彼は微笑っていた。