愛海に手を引かれるようにして、歩く。

小さくて柔らかい愛海の手。
あたしの腕を強く掴む、あの人とは違う。

あたしが本当に欲しいのはこの手で、
この手が欲しがっているのは、あの人の手。

だから、愛海の顔が見れなかった。


あたしと櫻井くんは、決してお互いに“恋人”としては見ていない。

だけど、昨日彼と一緒にいたあたしは、紛れもなく愛海を裏切っていて……。

昨日のことを思い出すと、とても愛海の顔を見ていられなかった。



いつまで迷っているんだろう。
愛海を彼に渡さないためなら、手段は選ばないって決めたはずなのに。

下駄箱から上履きを取り出して床に落とす。

やるせない気持ちもため息に変えて、一緒に落とした。

それでも消えない、心の中のモヤモヤ。

だけど愛海に嘘をつくことは、とても上手くなっているような気がする。


放り投げた上履きの中へ片足を入れようとした時、

「海憂、ちょっとトイレ寄ってもいい?」

靴を履き換えた愛海が、裏側の下駄箱からひょっこりと顔を出した。