茫然とするあたしをよそに、
「何か飲み物買ってくる」
櫻井くんは立ち上がる。それを、
「え、ちょっと!」
あたしは咄嗟に呼び止めた。
「ん?」
「あの、そのっ……これ、どうすればいいの?」
そう言って見せたのは、半強制的に受け取らされた、水族館の小さな紙袋。
本当に聞きたかったことは、こんなことじゃない。
だけど、ほんの一瞬だけ彼が浮かべた表情。
それはあたしの見間違えかもしれなくて、どう聞いたらいいのか分からなかった。
「別に。月城さんにあげたものなんだから、月城さんの好きにすれば?」
言葉の終わり、彼は軽く笑顔を浮かべた。
本心かそうじゃないのか、分からない笑顔。
そのまま歩いていく彼を、あたしは無言で見送る。
今日の櫻井くんは、いつも以上に考えていることが分からない。
わざわざストラップを買って、あたしに渡した意味も。
そもそも、水族館へ連れて来た理由も。
「ごめん」と謝ってみたり、悲しげな表情を浮かべた理由も。
近付けば近付くほど、分からなくなる気がして、早く離れたいと思った。



