「っ……!」

嫌だと声を上げる余裕もなくて、あたしはただ、ギュッと目を閉じた……けど。

あれ……?

覚悟した感触は、あたしを襲っては来なくて。

その代わりに感じたのは、フッと体が軽くなる感覚。

恐る恐る目を開けると、目の前にはもう櫻井くんの顔はなかった。

掴まれていたはずの手も、自由になっていた。


「……」

目を見開いてポカンとしながらも、少し浮いていたお尻をベンチへストンと落ろす。

そして現実を確かめるように、櫻井くんに顔を向けると、

「キスして欲しかった?」

目が合うなり、彼はにっこりと笑った。

「……」

ふざけてからかわれているのは、分かってる。

だけど、あたしはその問いかけを否定することも出来なかった。

もちろん、キスして欲しかったわけじゃない。


思わず言葉をなくしてしまったのは……

笑顔を向ける直前、彼がとても悲しそうな顔をしていた気がしたから――。