この顔が嫌い。
人の弱みに付け込んで、全てを思い通りにしてしまうこの人が大嫌い。
胸に渦巻くのは、激しい憎悪。
だけど櫻井くんのそんないつもの態度に、どこかホッとしている自分もいた。
だから、
「……受け取ります」
彼の思い通りだと分かっていても、返事することにそれほどの抵抗はなくて。
あたしのこと、好きなだけ笑えばいいって、彼に馬鹿にされる覚悟すら出来ていた。
なのに――。
「……」
櫻井くんはあたしの手を掴んだまま、ピクリとも動かない。
あたしの目をじっと見つめる彼の表情からは、いつの間にか乾いた笑顔はなくなっていて。
明らかにおかしい彼の様子。
戸惑ったあたしは、また目を逸らそうとした……その瞬間。
急に強くなった、あたしの手を掴む力。
反射的に視線を動かすと、
なっ……!
ただでさえ近かった櫻井くんの顔が、更に近くにあった。
“距離”と呼べるほどにない彼との距離。
「目ぇ逸らすなよ」
櫻井くんは射抜くみたいな鋭い目で、あたしを見て言った。
そして、
ゆっくりと顔を近づける櫻井くん。



