彼の方へ前のめりになった体。
顔と顔の距離は、ほんの数センチ――。
少し動けば触れてしまいそうになる距離で、
「……月城さんさ、ちょっと勘違いしてない?」
櫻井くんはフッと笑った。
「月城さんと俺って、付き合ってんの。月城さんは俺の彼女なの。なのに、月城さんが俺のことを拒むのっておかしいよね?」
いつものように、にっこりと笑う櫻井くん。
心の中では笑っていない、上辺だけの笑顔。
「だからこれ……受け取れって言うの?」
櫻井くんに掴まれた手に持ったままの紙袋。
あたしはそれに、一度視線を傾けて聞いた。
すると、
「嫌なら別に受け取らなくてもいいよ? でも、だったら素直に喜んでくれそうな人にあげるだけだけど」
もし誰かがこの光景を見たら、きっとイチャイチャしてるカップルだと思うんだろう。
近付きすぎた距離に、キスしているようにさえ見えるかもしれない。
でも、実際は違う。
「どうする?」
薄ら笑いを浮かべて言った彼を、あたしは下唇を噛んで睨みつけた。



