恋を知らない人魚姫。


「……」

目の前には、白い小さな紙袋。

それが何なのか、分かったような気がしたのは、水族館の名前が青い文字で印刷されていたから。

「い……いらない」

あたしはそれに触れることもなく、顔を背けて拒否した。

なのに、

カサッ。

膝の上に置いた手の甲に、何か落ちるように乗った感触。

見るとそれは、櫻井くんが差し出していた紙袋で。


「っ、いらないってば!」

トンッと音がするくらい、あたしは力いっぱい彼の胸に付き返した。

すると、「こほっ」っと小さく咳き込む櫻井くん。

「あっ……」

あまりに強く入ってしまった力に驚いて、慌てて手を引こうとした……だけど、

その手を櫻井くんがギュッと掴んだ。


「……」

櫻井くんは無言で、あたしをじっと見つめる。

その顔に感情は表れてなくて、手首を掴む力だけが強くて……怖くなる。

「離して」

耐え切れなくなったあたしが、小さく言って目を逸らそうとすると、

「……っ!!」

櫻井くんは掴んだ手を、自分の方へと引き寄せた。