恋を知らない人魚姫。


自分でも、何をしてるんだろうと思った。

こんな所で感情的になって、怒鳴ったりして。


だけど、あんまり簡単に言うから。

愛海にストラップを買えないのも、あたしが苦しい思いをしてるのも、みんな櫻井くんのせいなのに。

その本人が、あまりに簡単に「買えばいいじゃん」とか、「誰と来たか誤魔化せる」とか言うから、無性に腹が立ってしまって。


……こうやって、あたしを怒らせるのも、櫻井くんの“遊び”のうちのひとつなのかな。

そう考えたら、ここにいるのが無性に嫌になって、背を向けようとした。


その時だった。


「ごめん」


頭の上にそっと、落ちてきた感触と言葉。

……え。

あたしの心が、思わず止まる。

だけど、振り返って顔を上げた時には、櫻井くんは既に背中を向けていた。


「……」

ひとりで歩いて行く、櫻井くん。

あたしは固まったまま、追いかけることも、声をかけることも出来なくて。

だって、“ごめん”なんて──。