恋を知らない人魚姫。


ずっと前、まだ中学生だった頃。
家族旅行で、イルカの群れを見たことがある。

広い海原を、生き生きと泳いでいたイルカ。


だけど狭い水槽の中だって、イルカはとても優雅に泳いでいて。

本来なら生まれることのない、人間という別の種族との絆を築き上げ、ショーさえ楽しんでいるように見える。


どこでも自分の居場所を見つけられ、愛くるしい表情を見せるイルカ。

誰からも好かれる、その姿はまるで……。


「それって、月城さんが居場所を見つけられないってこと?」

「っ……」

続けて問いかけられた内容に、思わず口ごもる。

居場所を見つけるとか、見つけないとか、言い出したのはあたしだ。

だから、何らかの返事をすべきなのは分かるけど……


その質問は、あまりに真っすぐすぎて、一番痛い所に突き刺さる。


……そうだよ。

あたしは居場所を見つけられない。

広い世界を泳いでいくことなんて出来ない。


今いるのは、とても狭い水槽の中で。

その水槽さえも間違っている。