恋を知らない人魚姫。


さっき、水槽にいたイルカとは違う。

飼育員と息をピッタリ合わせ、まるでお客さんに見てもらうのを楽しんでいるかのように、生き生きと泳いだり跳んだりしている。

その姿を必死に目で追っていると、


「ふっ……」


隣から吹き出したような声が聞こえて。

見ると、櫻井くんが笑っていた。


彼のことを一瞬忘れ、夢中になっていた自分にハッとする。

すると、


「何だかんだ言って、普通の女の子じゃん」


櫻井くんは笑いながら、そう言った。


普通の女の子?
あたしが……?

そんなこと、あるはずない。

だってあたしは……。


プイッと顔を逸らすと、

「何でイルカが好きなわけ?」

櫻井くんが聞いてきた。


そんなこと、どうだっていいじゃない。

そんな返事が頭の中に浮かぶ。

だけど、どうしてだろう。


「……自分の居場所を見つけるのが、上手いから」


あたしは素直に、答えを口にしていた。