恋を知らない人魚姫。


「来て」

「えっ!?」

かけられた声と同時に、グイッと腕を掴まれた。

「なっ、何!?」

「いいから」

櫻井くんはそのまま歩き出す。


順路からは反れた道。

さっきまで多くの人で賑わっていたはずなのに、進めば進むほど、人通りが少なくなる気がして不安になる。


「あのっ」

何度も手を振り解こうとした。

だけど櫻井くんは、そんなあたしの力を簡単にねじ込めて。


やがて辿り着いた先は、外の光が差し込むガラス扉の前だった。

そこがどこなのか分かったのは、櫻井くんが扉に手をかけたとき。


流れ込んで来たのは、熱い真夏の気温と……歓声。

そのまま足を進めて、やっとあたしの目に飛び込んだそれは、


高く高く飛んだイルカ――。


「カイルちゃん良く出来ました!」

ポニーテールの元気なお姉さんが、イルカの頭を撫でながらご褒美を渡す。


櫻井くんが連れて来た先は、イルカのショーをやっている屋外プールだった。