恋を知らない人魚姫。



名前をきっかけに海を好きになったのかは、覚えていない。

だけど、物心ついた時から海は好きで。
当たり前のように、水族館も好きだった。


外から建物の中に入ると、広がる深い青の世界。

空調的な意味で涼しいのはもちろん、体の内側から涼しさを感じる気がする。


あたしは順路に沿って、ゆっくりと歩き出した。

さっきまで前を歩いていた櫻井くんは、今度はあたしの足取りを追うように、ゆっくりと歩く。


大きな水槽をスイスイと泳いでいく魚や、
小さな水槽に閉じ込められるように入れられた魚達。

色んな海の生き物が共存する水族館は、少し学校に似ていると思った。

そして……。



「イルカ、好きなの?」

館内に入って始めて、櫻井くんが声をかけてきた。

片手をガラスに当て、見入っていたそれは……イルカの水槽。


あたし達から見れば大きな水槽だけど、イルカからすれば、きっと小さい。

それでも、限られた空間を飽きることなく、クルクルと泳ぐ姿はとても健気に思えて……。


「好き……」


小さく、呟くように返事した。

すると、