恋を知らない人魚姫。


来ないわけないって、分かっていたくせに。

向けられた笑顔に、プイッと顔を逸らすと、小さく苦笑するような声が聞こえて。

「じゃあ、行こっか」

「えっ、ちょっ……!」

櫻井くんはあたしの手を掴んで、足早に歩き出した。


いつ買ったのか、2枚の切符を改札機に通し、あっという間にホームの中へ。

お金……って、思ったけれど、それよりもまず!


「逃げたりしないから、離してっ!」


掴まれた手が気になった。
触れられたくないと思った。

体の奥がゾクッとして、拒絶反応。

……だけど。


「ダメ、電車来るから。……ていうかさ」

ピタッと、櫻井くんが足を止める。


「月城さん分かってる? 付き合うっていう意味」


振り返り、ギュッと手に力を込められ、あたしは息を飲んだ。


付き合うっていう意味。

「それはっ……」


真っ直ぐ向けられた、突き刺さるような視線。

分からないとは……言わせてくれない。