恋を知らない人魚姫。




『今日デートなんだ』

放課後、クラスメートが話していた言葉を、ふと思い出す。

まさか自分がそういう状況に陥るなんて、思ってもみなかった。



胃が痛い……。

隣町の駅中。
あらかじめ指定されていた通り、改札口の近くに立って、彼を待つ。


どこに連れて行かれて、何をする予定なのかは知らない。

昨日の夜、始めて届いた彼からのメールには、待ち合わせ場所と時間だけしか書かれていなかったから。


周りを少し見渡して、腕時計を見てみると、10時55分。

約束の11時まで、あと5分。


何でこんなに早く来ちゃったんだろう……。

ため息と一緒に目を伏せた時だった。


「ちゃんと来てくれたんだ?」


聞こえた声に、パッと顔を上げる。

すると、一体どこから現れたのか、目の前には櫻井くんが立っていた。