恋を知らない人魚姫。


「っ……」

彼が何を考えているか、何が狙いなのか分かってる。

ここであたしが声をかけたら、彼の思惑通りだ。


だけど――。


「待って」

あたしは櫻井くんの、長い腕を掴んで止めた。

「……何?」

ゆっくりと振り返る櫻井くん。
その顔には、薄ら笑い。

彼の策略に、見事にハマってしまっていることは自覚してる。

それでも……。


「明後日、行く」


真っ直ぐ、彼を睨みつけて言った。


この人と一緒に過ごすなんて嫌。
だけど、愛海がこの人のものになることの方が耐えられない。

あたしの狙いは、愛海とこの人を引き裂くことだから……これでいい。


「よく出来ました」

櫻井くんは、にっこりと笑って言った。