「海憂(みう)遅いっ!!」

少し冷たい風が、長い髪を撫でる。

「立入禁止」の貼紙が貼られた屋上のドアを開けると、そんな風と一緒に、可愛い声があたしを迎えた。


天恭愛海(てんきょう あいみ)。

だだっ広い屋上の真ん中、いつも彼女は待ってくれてる。


あたしの、針のように真っ直ぐな黒髪とは違い、ふわふわの柔らかい茶髪に、ピンクのカチューシャ。

大きな瞳に…半袖シャツ、短いスカートからは細い手足が覗く。

誰が見ても“可愛い”彼女は、


あたしの

たったひとりの友達。



「ごめん。ちょっと先生に呼ばれて……」

謝りながら近付くと、愛海は「いいよ」と、にっこり笑った。


「それより!早くご飯食べないと時間ないよ」

「先に食べてれば良かったのに……」

「ひとりで食べても美味しくないでしょ?」

愛海は弁当箱の包みを開ける手を止め、ちらっと上目遣いでこっちを見る。


「……ありがとう」


あたしは、今日はじめての笑顔をこぼした。