恋を知らない人魚姫。


仰向けになった顔を、上から覗き込むのは……あの頃より少し大人びた顔。

「海憂は?」

「え?」

「海憂は嬉しくない?」

何を思ったのか、急に真面目な顔でしてきた質問に、

「もちろん嬉しいよ……?」

あたしは素直に答える。

愛海の恋に協力してくれることも、その場所に水族館を選んでくれたことも。

いつだって、あたしの気持ちを読むように、さらりと喜ばせることしてくれるところ。

すごくすごく、嬉しい。


返事を聞くと、拓也はフッと微笑んで、静かに顔を落とす。

そっと短く重なる、唇。

逆方向だから、鼻と鼻がぶつかる心配はないけど、いつもと違う景色と、不意打ちの行動に、くすぐったいような気持ちになって。

「もっ……邪魔するのやめてよ」

あたしはすぐに体を起こした。


付き合って、もう2年が経とうとするのに、まだ慣れない。

ちょっとしたことに、まだドキドキする。