恋を知らない人魚姫。


高校を卒業して、お互い別の道を歩むことになって。
少し距離が出来てしまうことも覚悟したけど、愛海は変わらず親友でいてくれて。

あたしのこと、今でも心配してくれたり、大切に思ってくれるから、出来る限りあたしも力になりたい……って思う。

だけど彼……櫻井くんこと拓也からしたら、そんな感情なんて、知るはずもないことで。

話が話だし、やっぱり断られるかな……と、思っていると、


「じゃあ、水族館行こっか」


「……え?」

聞こえた言葉に、思わず振り返る。

「海憂も愛ちゃんも、水族館好きだったじゃん。それに昔、また行こうって約束してたし」

言ってることが、思っていたのとは違いすぎて、呆然としてしまう。
そんなあたしに、

「……何、嫌?」

拓也は不思議そうに問いかけて。
あたしは慌てて、首を横に振る。

「ううん!愛海、すっごく喜ぶと思う!」

承諾してくれただけでも嬉しいのに、提案してくれた場所は水族館。

何だかすごく嬉しくて、今すぐ伝えてあげたい気持ちになって、あたしは隣に置いた鞄から、ケータイを取り出した。

だけど、

「ひゃっ……!」

突然引っ張られた片腕。

バランスを崩し、あたしの頭はベッドの上へと倒れる。