恋を知らない人魚姫。


差し出された本を仕方なく受け取ろうとした……だけど。

グッと入れられた力。

櫻井くんは、本から手を離さない。


「あと、もうひとつ用事あるんだけど。明後日って暇?」

「え……?」

「日曜日。デートしてよ」

「……」


にっこりと向けられた笑顔。

言葉の意味が分からず、あたしはポカンとする。


デート……って。


「なっ!何であたしが、あなたと出掛けなくちゃならないのっ!?」

意味をやっと理解したあたしは、本から手を離し、彼に背を向ける。

すると、

「ふーん……」

後ろから聞こえた声。


いけないと思った。

あたしが断ったら、きっと――。


気付いたあたしが慌てて振り返ると、



「じゃあ、愛ちゃん誘うことにするよ」


予想した、正にそのまま。

相変わらずの笑顔を浮かべて言うと、櫻井くんは背を向けた。